資産を持ち始めるときには、多くのことを考えます。何を選ぶのか、どれだけを充てるのか、いつ始めるのか。ご相談の場でも、話題の中心はたいてい入口の判断です。いっぽうで、その資産をいつ、どのような形で手放すのか、あるいは誰に渡すのかという出口の話は、後回しにされることが少なくないように感じています。出口は終わりの場面の話だと受け取られがちだからかもしれません。本稿では、出口を最後に考えるものではなく最初に置くものとしてとらえ直し、資産運用における判断の順序を整理します。
「出口」は終わりではなく、判断の起点だと考えています
資産運用の話は、通常、何を持つかから始まります。その順序が自然であることは、私たちも否定しません。ただ、持つという判断が妥当かどうかは、どのように終えるのかが見えていてはじめて測れるのではないでしょうか。同じものでも、近いうちに使う予定の資金で持つのか、次の世代へ渡すつもりで持つのかによって、その意味は大きく変わります。
出口とは、売却の時期だけを指す言葉ではないと考えています。使うのか、渡すのか、持ち続けるのか。そして、それを誰が決めるのか。こうした終え方の見通しが先にあれば、入口での選択肢は自然と絞られていきます。ですから私たちが最初に伺うのは、これを最後に何に変えるおつもりですか、という問いです。
入口の判断ほど、出口の判断は整っていないことが多いのです
判断を誤りやすいのは、手放すかどうかを、その場の状況だけで決めざるを得なくなった場面です。値が下がったときには戻るまで待ちたくなり、値が上がったときにはもう少し先を見たくなる。どちらも自然なお気持ちですが、そのときの感情が、最初に考えていた目的に代わって判断の基準になってしまうことがあります。
これには構造的な理由があると考えています。入口の判断には、比べる材料も、相談する相手も、考える時間もそろっています。けれども出口の判断は、多くの場合、事情が変わったときに急に求められます。準備のないまま迫られる判断は、どうしても目の前の数字に引き寄せられます。だからこそ、どのような状況になったら見直すのかを、落ち着いているうちに言葉にしておく意味があるのではないでしょうか。
出口が次の世代にあるとき、終え方は引き継ぐ方に委ねられます
出口の時期が、ご本人の代のうちに来るとは限りません。持ち続けたまま次の世代へ渡るのであれば、その資産をいつ、どう終えるのかを判断するのは、引き継がれたご家族です。ところが、なぜそれを持っているのか、どうなったら手放してよいと考えていたのかという理由は、記録に残りにくいものです。
理由の分からない資産を受け取った方は、手放してよいのかどうかを判断しきれず、そのまま持ち続けるか、反対に一度に整理してしまうか、どちらかに傾きやすいように感じています。ご本人が思い描いていた終え方を、ご家族と共有しておくこと。それは資産そのものを渡すことと同じくらい大切な準備だと考えています。
入口ごとの助言はあっても、出口をまとめて見る役割は空きがちです
資産を持つときには、それぞれの領域に詳しい方が助言をしてくださいます。金融資産であれば金融機関のご担当が、不動産であれば不動産の専門家が、税務であれば税理士が、それぞれの立場から入口の判断を支えます。その助言は、それぞれの範囲では理にかなったものです。
けれども出口は、領域をまたいで重なることがあります。ある資産を手放す時期が、別の資産の扱いや、ご家族の事情や、事業の節目と重なる。一つずつ見れば妥当な終え方でも、並べてみると同じ時期に集中している、ということも起こり得ます。個別の判断は専門家に委ねるべきものですが、出口を一本の時間軸に並べて眺める役割は、どこかに置いておく必要があるのではないでしょうか。
実物資産は、出口に時間がかかることを前提に持つものです
不動産をはじめとする実物資産は、手放そうと決めてから実際に手放すまでに、相応の時間と手続きを要します。この性質は、換金しにくさをどうとらえるかという問いとも重なりますが、出口の設計という点から見ると、もう一つの意味があると考えています。
それは、出口を早めに考えておくほど、選べる終え方の幅が広がるということです。売却するのか、用途を変えるのか、そのまま次の世代へ渡すのか。いずれを選ぶにしても、建物の状態や権利関係を確かめ、管理の担い手を整える準備が要ります。時間のかかる資産だからこそ、出口は持ち始めた時点から視野に入れておくべきものではないでしょうか。
その資産は、最後に何になる予定でしょうか
出口を考えることは、どこか後ろ向きなことのように感じられるかもしれません。始めたばかりのものの終わりを考えるのは、気が進まないことでもあります。それでも私たちは、終え方の見通しを持っていらっしゃる方ほど、途中の判断に迷いが少ないように感じています。
もし一つだけ試していただけるとしたら、お持ちの資産のそれぞれについて、最後に何になる予定なのかを一言ずつ書き添えてみていただけないでしょうか。使う、渡す、持ち続ける。答えが書けないものがあれば、そこがまだ設計されていない部分です。資産運用を守り、託すための設計として考えることは、こうした一言から始まるのだと考えています。
本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。