不動産を取得するときには、多くの時間をかけて検討します。どこに、どのようなものを、どのような条件で持つのか。けれども取得を終えると、その後は「持っている」という状態がただ続いていくように受け止められがちです。管理は専門の会社に任せているので心配はない、というお声を伺うこともあります。その判断自体は合理的なものだと私たちも考えています。ただ、任せているのは実務であって、方針まで任せきれているのかどうかは、改めて確かめておく価値があるのではないでしょうか。本稿では、不動産の保有を状態ではなく判断の連続としてとらえ直し、持ち続けることの意味を整理します。
「持っている」とは状態ではなく、判断を重ね続けることだと考えています
不動産の保有は、取得の時点で完結するものではありません。建物の手入れをいつ、どの程度まで行うのか。使い方をこのまま続けるのか、見直すのか。契約を更新するのか、誰に管理を委ねるのか。保有している間には、こうした判断が途切れることなく求められます。
管理を委託することで、日々の実務は大きく軽くなります。けれども、どこまで手をかけるのか、何を優先するのかという方針は、委託先が決めるものではなく、持ち主であるご本人に残るものです。方針が言葉になっていないと、委託先はそのつど無難な判断を重ねるほかなく、気づけば誰の意図でもない状態ができあがっていることがあります。
順調に見える時期ほど、判断は先送りされやすいのです
判断を誤りやすいのは、何かが起きたときよりも、何も起きていないように見えるときだと感じています。目立った問題がなければ、点検や見直しは後回しになります。そして次に向き合うのは、まとまった手入れが避けられなくなったときや、使い方を変えざるを得なくなったときです。そうした場面では選べる手立てが限られ、本来の方針よりも、目の前の事情に合わせた判断になりやすいように感じています。
これには構造的な理由があると考えています。建物や周囲の環境の変化はゆっくりと進み、目に見える形になるまでに時間がかかります。報告書は定期的に届いても、それを保有の方針に照らして読む人がいなければ、数字や記述は確認されたまま積み重なっていきます。変化が緩やかな資産だからこそ、落ち着いた時期に方針と照らし合わせる機会を意識して設けておく必要があるのではないでしょうか。
保有の方針は、建物より先に引き継がれる必要があります
不動産が次の世代へ渡るとき、受け取られるのは土地や建物そのものです。いっぽうで、なぜそれを持ち続けてきたのか、どこまで手を入れるつもりだったのか、どのような経緯で今の使い方になったのかといった方針や経緯は、記録に残りにくいものです。
経緯の分からない不動産を引き継いだご家族は、何を基準に判断すればよいのか迷われることが少なくありません。手入れの履歴や契約の経緯、委託先とのやりとりを、方針とあわせて整理しておくこと。それは保有している間の判断を助けるだけでなく、次に判断を担う方への大切な手渡しになると考えています。建物の鍵を渡すことと、持ち続けてきた理由を渡すことは、同じではないのです。
管理・建築・税務・法務の助言を、一つの方針で束ねる役割が要ります
不動産の保有には、多くの専門家が関わります。日々の管理は管理の担い手が、建物の状態や手入れの方法は建築の専門家が、税の扱いは税理士が、契約や権利の整理は弁護士や司法書士が、それぞれの立場から支えます。いずれの助言も、その範囲では理にかなったものです。
けれども、ある手入れの判断が、税の扱いや承継の計画、ほかの資産の使い方と重なることがあります。一つずつ見れば妥当な判断でも、並べてみると互いに噛み合っていない、ということも起こり得ます。個別の判断は専門家に委ねるべきものですが、それらを保有の方針に照らして並べて見る役割は、どこかに置いておく必要があるのではないでしょうか。
実物資産は、手をかけ続けることで価値が保たれるものだと考えています
金融資産の多くは、持ち主の関わり方によって中身が変わることはありません。これに対して不動産は、時間とともに状態が変わり、保有する方がどう手をかけるかによって、その姿が変わっていく資産です。換金しにくさをどうとらえるかという問いや、立地を目的に照らして見るという視点も、保有している間の関わり方と切り離しては考えにくいものです。
私たちが不動産を資産の管理と承継の中で大切に扱っているのは、この性質ゆえです。手間がかかるということは、持ち主の意図を反映できる余地があるということでもあります。持ち続けるという選択には、その余地を引き受けるという意味が含まれているのだと考えています。
その不動産について、方針を一言で語れるでしょうか
保有している不動産について改めて考えることは、問題がないときには気の進まないことかもしれません。それでも私たちは、持ち続ける理由をご自身の言葉で語れる方ほど、手入れや見直しの場面で迷いが少ないように感じています。方針がはっきりしていれば、委託先やご家族にも意図が伝わりやすくなり、判断を分かち合うこともしやすくなるのではないでしょうか。
もし一つだけ試していただけるとしたら、お持ちの不動産のそれぞれについて、なぜ持ち続けているのか、どこまで手を入れるつもりなのかを、一言ずつ書き留めてみていただけないでしょうか。言葉にならないものがあれば、そこが方針をご家族と話し合っておくべき部分なのだと考えています。
本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。