資産運用

「増えた・減った」で測らない ―― 資産運用の点検に必要な物差し

運用がうまくいっているかどうかを、何を見て判断すればよいのでしょうか。ご相談の場で、このお尋ねをいただくことは少なくありません。多くの場合、最初に確かめられるのは評価額の増減です。前の期より増えていれば安心し、減っていれば落ち着かない。その反応は、ごく自然なものだと思います。ただ、増減というひとつの数字だけを見つめていると、判断の順序がいつのまにか入れ替わってしまうことがあります。本稿では、資産を点検するときに私たちがどのような物差しを置いているのか、その考え方を整理してみたいと思います。

点検とは、成績を確かめる作業ではないと考えています

資産の見直しというと、成績表を開くような作業を思い浮かべる方が多いかもしれません。そうした確認が不要だとは思いません。記録として残す意味はあります。

ただ、私たちは点検を、成績を確かめる作業ではなく、目的との距離を測る作業だと考えています。資産はそれ自体が目的ではなく、何かを実現するための手段です。ご家族の暮らしを支えること、事業を続けること、次の世代へ何かを渡すこと。目的が先にあり、資産の姿はその後からついてきます。

この順序を置くと、見るべきものが変わります。市場は、お客様の目的とは関わりなく動きます。動いた結果として増えたか減ったかということと、目的にどれだけ近づいたかということは、本来別の話です。

数字が動くとき、私たちは順序を飛ばしてしまいます

判断を誤りやすいのは、相場が大きく動いた直後や、周囲の方から運用の話を聞いた直後です。そうした場面では、何のための資産だったのかを確かめる前に、持っているものをどうするかという話から始まってしまいます。

これはご本人の注意力の問題というより、構造の問題だと私たちは見ています。評価額は明快で、絶えず更新され、他と比べることもできます。いっぽうで目的は言葉にしにくく、めったに更新されず、比べる相手もいません。更新される頻度がこれほど違えば、頻繁に目に入るもののほうが判断の入口になってしまいます。

そこで私たちがお勧めしているのは、点検の順番をあらかじめ決めておくことです。はじめに、何のための資産で、いつ使う見込みなのかを確かめる。次に、当面の支払いに充てる手元の資金が足りているかを見る。評価額を開くのは、そのあとです。順番を決めておくと、見直しのつもりが値動きへの反応に変わってしまうことを、いくらか防げます。

物差しは、ご本人の代だけのものではありません

ここまで目的という言葉を使ってきましたが、その目的は誰のものかという問いが残ります。

一代のうちで使い切る資産であれば、ご本人が納得できる状態が答えになります。けれども、次の世代へ渡ることを前提にすると、話は変わってきます。ご本人にとって十分な備えが、お子様の世代にとっても十分であるとは限りません。

そして厄介なのは、資産そのものは引き継げても、なぜその形で持っているのかという理由のほうは、放っておくと引き継がれないことです。年に一度でも、ご家族が集まる場で目的を言葉にしておくこと。手間はかかりますが、後の判断をずいぶん軽くしてくれると考えています。

担当ごとの物差しは、それぞれ正しく、それぞれ部分的です

資産のまわりには、金融、税務、法務、不動産と、いくつもの専門領域が並んでいます。それぞれの専門家は、自分の領域のなかで最も良いと考える形を示してくださいます。その助言は、多くの場合それ自体としては正しいものです。

難しいのは、正しい助言を並べても、全体として整合するとは限らないことです。ある領域で望ましいとされる形が、別の領域では扱いにくい形になることがあります。どちらを立てるかは、専門領域の内側だけでは決められません。決めるためには、お客様が何を優先なさるのかという、領域の外にある物差しが要ります。

私たちが担おうとしているのは、この俯瞰の役割です。個別の助言に取って代わるのではなく、並べて、順位をつけ、目的に照らして選び直す。専門家のご判断を代わりに行うことはできませんし、行うべきでもありません。ただ、全体を見る人がいないままでは、部分ごとの最適が積み重なっていくだけになってしまうのではないでしょうか。

実物資産は、値動き以外の情報を持っています

不動産をはじめとする実物資産は、日々値がつくものではありません。そのため、金融資産と同じ物差しで点検することができません。

私たちが見ているのは、使われている状態が続いているか、修繕や更新の必要が近づいていないか、いま置かれている用途がこれからも合っているか、そして管理を続けられる体制があるか、といったことです。いずれも短い期間の数字には現れにくく、時間をかけて効いてくるものばかりです。

値動きに日々揺さぶられにくいことは、実物資産の落ち着いた面だと思います。ただ、その裏返しとして、見ないまま時間が過ぎると静かに傷んでいくという面もあります。金融資産と実物資産では、点検の周期も、見る項目も変えたほうがよいのではないでしょうか。

その資産は、何のために持っているのでしょうか

点検の物差しを整えるという話は、地味で、すぐに成果の見えるものではありません。それでも、目的との距離を測る習慣がある資産と、増減だけを追ってきた資産とでは、時間が経つほど姿が変わってくると私たちは考えています。

次に数字を開かれるとき、その前にひとつだけ、この問いを置いてみていただけないでしょうか。この資産は、何のために持っているのか。答えがすぐに出なくても構いません。答えに詰まったこと自体が、点検のはじまりだと思います。私たちは、その問いをご一緒に言葉にしていく役割でありたいと考えています。

本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。

関連記事

TOP
Asset Consulting Contact