どこまでリスクをとれますか、という問いは、資産運用の入口でよく投げかけられます。質問に答えていくと、積極的、あるいは慎重といった言葉で結果が示され、それがご自身の型のように受け止められることもあります。ただ私たちは、この問いが性格や好みの話として扱われることに、いくらかの違和感を持ってきました。どこまで受け止められるかは、お気持ちだけで決まるものではなく、資産全体の構造やご家族の事情によっても変わるのではないでしょうか。本稿では、リスクの許容度を、誰が、何をもとに決めるものなのかという視点から整理します。
受け止められる揺れは、性格だけでは決まらないと考えています
リスクへの向き合い方に、その方らしさが表れることは確かです。慎重な方もいらっしゃれば、変化を前向きに受け止める方もいらっしゃいます。ご自身が受け入れられる幅を知ることは、運用の設計の土台でもあります。
ただ、許容度には二つの面があるように思います。一つは、どのくらいの揺れなら落ち着いていられるかというお気持ちの面です。もう一つは、揺れが起きても暮らしや事業、ご家族との約束に差し支えないかという構造の面です。お気持ちの上では受け止められても、近く使う予定のある資金であれば、構造の上では受け止められないことがあります。反対に、構造には余裕があるのに、必要以上に身構えていらっしゃることもあります。私たちが先に確かめたいのは、構造の面です。その資金が揺れたとき、何に差し支えるのか。そこが分かってはじめて、お気持ちの話を重ねる意味が出てくるのだと考えています。
穏やかなときに考えた許容度は、揺れの中では変わることがあります
判断が難しくなるのは、想定していた揺れが実際に起きた場面です。落ち着いているときには構わないと思えた幅でも、目の前で金額が動くと、違って見えることがあります。これはご本人の意志の問題ではなく、構造的な理由があると考えています。穏やかなときの許容度は、幅として想像されています。けれども実際の揺れは、いつ終わるのか分からないという時間の不安を伴って訪れます。ほかの資産の動きや、事業の資金繰り、ご家族の出来事が重なることもあります。
想像していたのは一つの資産の揺れであり、経験するのは暮らし全体の揺れなのかもしれません。ですから、どこまで耐えられるかを幅だけで答えるのではなく、それが長く続いたときに何が起きるのか、そのとき誰に相談し、どう決めるのかまで、落ち着いているうちに言葉にしておくことが大切ではないでしょうか。
その揺れを受け止めるのは、ご本人だけとは限りません
許容度の話は、通常、ご本人を主語に語られます。けれども資産の時間軸が世代をまたぐとき、揺れを受け止めるのは、ご本人だけではなくなっていきます。ご本人にとっては長く付き合ってきた値動きでも、引き継がれたご家族には、初めて経験する不安かもしれません。ご本人が落ち着いて見ていられたのは、なぜそれを持ち、どこまでの揺れを想定していたのかをご存じだったからでしょう。その見通しは、資産と一緒には渡りません。
また、同じご家族の中でも、受け止め方はそれぞれに異なります。ご本人の許容度を基準に組み立てた構成が、次の世代にとっても無理のないものとは限らないのではないでしょうか。どこまでの揺れを想定して持っているのか、その考えを共有しておくことは、資産の中身を伝えることと同じくらい意味のある準備だと考えています。
確認の場が分かれていると、全体の許容度はどこでも問われません
許容度の確認は、多くの場合、金融商品を検討する場で行われます。その確認は、その範囲の中では大切なものです。けれども、そこで見えているのは、資産全体の一部であることが少なくありません。不動産の借入、事業の資金繰り、ご家族のための資金の予定といった事情は、別の場で、別の方と話されています。
それぞれの場では無理のない水準に見えても、同じ時期に重なると、全体としては想定を超えてしまうことも起こり得ます。個別の判断はそれぞれの専門家に委ねるべきものですが、全体としてどこまで受け止められるのかという問いには、どこかで誰かが向き合う必要があるのではないでしょうか。私たちは、中立の立場からその問いを一緒に整理する役割が、もっと意識されてよいと考えています。
値が見えにくい資産にも、揺れがないわけではないと考えています
不動産をはじめとする実物資産は、日々の価格が画面に表示されるものではありません。そのため、揺れの少ない資産のように感じられることがあります。ただ、値が見えにくいことと、揺れがないことは同じではないと考えています。
実物資産の揺れは、空室や修繕、借入がある場合の返済負担の変化、周辺環境の移り変わりといった形で、時間をかけて現れます。持ち続けるという判断の積み重ねの中で、手元の資金や暮らしに静かに影響していくものです。いっぽうで、値が毎日見えないことが、落ち着いて持ち続けやすいという面もあるのかもしれません。見えにくさは利点にもなりますが、許容度を考えるときには、見えていない揺れも含めて数えておく必要があるのではないでしょうか。
その揺れは、誰の暮らしにまで届くのでしょうか
どこまでならとれますかと問われると、一つの答えを出さなければならないように感じられるかもしれません。けれども許容度は、一度決めて終わるものではないと私たちは考えています。事業の節目やご家族の変化とともに、構造もお気持ちも変わっていくからです。
もし一つだけ試していただけるとしたら、お持ちの資産のうち、大きく揺れたら困るものを思い浮かべ、それが誰の、どの予定に届くのかを書き添えてみていただけないでしょうか。ご本人の暮らしに届くものと、ご家族の予定に届くもの。その違いが見えてくると、配分をどう考えるかという問いも、少し具体的になるのではないかと考えています。
本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。