不動産は換金しにくいから、資産としては扱いにくい。そうしたお話を伺うことがあります。必要なときにすぐ現金にできるかという一点で比べれば、たしかにその通りだと思います。ただ、この扱いにくさを欠点として片づけてしまうと、不動産という資産が併せ持っているもうひとつの性質を、見落としてしまうことがあるのではないでしょうか。本稿では、換金のしやすさという物差しをいったん脇に置き、不動産を時間という軸から見直してみたいと思います。売るか持ち続けるかという二択を迫られる前に、私たちが確かめている順序についても触れます。
換金しにくさは、弱点である前に性質です
金融資産と不動産では、現金に替わるまでの手数と時間がまるで違います。片方は短い時間で現金にできますが、もう片方は相手を探し、条件を詰め、手続きを重ねなければなりません。この差を不便と表現することは、間違いではないと思います。
ただ、同じ性質には別の面もあります。すぐに替えられないということは、その日の気分や短い期間の空気では動かしにくいということでもあります。判断と判断のあいだに、否応なく時間が挟まる。私たちはこれを、不動産という資産の性質のひとつとして受け止めています。換金しにくさを嘆くよりも、それを前提として設計に織り込むほうが、話が前に進むのではないでしょうか。
売るか持つかを迫られるのは、たいてい急いでいるときです
不動産の判断が難しくなるのは、多くの場合、決めなければならない事情のほうが先に来たときです。相続が起きた、まとまった支払いが必要になった、共有されている方の意向が変わった。検討の時間が十分にないまま、売るか持ち続けるかという二択に押し込まれます。
これはご本人の準備不足というより、構造の問題だと見ています。現金にするまでに時間のかかる資産を、時間のない状況で判断しようとしているのですから、無理が出るのは当然です。ですから私たちは、判断の巧拙よりも、急いで決めざるを得ない場面を減らすことを先に考えます。当面の支払いに充てる資金を、動かしにくい資産とは別に確保しておく。共有関係や管理の取り決めを、平時のうちに文書にしておく。地味な備えですが、不動産では最もよく効くのではないかと思います。
不動産の時間は、持ち主の一代より長く流れています
建物には修繕や更新の周期があり、土地は周囲の使われ方が変わるのに合わせて、担う役割が移り変わっていきます。いずれも年単位ではなく、十年、二十年という幅で効いてくる変化です。この幅は、ある方が資産を持ち続ける期間と必ずしも一致しません。不動産は、持ち主の代を越えて時間が流れている資産だと言えます。
そう捉えると、判断の主語も変わってきます。ご本人が納得できるかどうかだけでなく、渡された側が扱えるかどうかまで含めて考える必要が出てきます。権利そのものは登記や契約という形で引き継げますが、日々の管理を誰にどう頼んでいるのか、何を目安に修繕を判断してきたのかといった段取りは、書面に残っていないことが多いものです。渡す準備というと権利の話に向かいがちですが、扱える状態にして渡すという視点も要るのではないでしょうか。
不動産の判断は、いくつもの専門の境目に落ちてしまいます
ひとつの不動産をめぐって、関わる専門領域はいくつもあります。取引の実務、法規制、建築、税務、金融。それぞれに専門家がいらっしゃり、その領域では的確な助言をくださいます。難しいのは、不動産の判断がたいてい領域と領域のあいだに落ちることです。ある形にすれば扱いやすくなる一方で、別の面では負担が増えるということが起こります。
どちらを選ぶかは、専門領域の内側だけでは決まりません。何を優先なさるのかという物差しは、お客様の側にあるからです。私たちが担おうとしているのは、それぞれのご意見を並べ、目的に照らして順位をつける役割です。建築の可否や税務の取り扱いは有資格の方に確かめていただく必要がありますが、全体を見て順序を決める人がいないままでは、部分ごとの正しさが積み上がっていくだけになってしまうように思います。
保全と管理は、資産の性質そのものを左右すると考えています
不動産が持つ時間の長さは、放っておけば有利に働くというものではありません。使われている状態が続いているか、修繕や更新の時期が近づいていないか、いまの用途がこれからも合っているか。こうした手当てを重ねてはじめて、長く持つことに意味が出てくるのだと思います。
私たちが実物資産に関わるとき、まず見ているのは、続けられる形になっているかという点です。取得なさるときの条件よりも、持ち続けるあいだに誰が何を担うのかのほうが、後の姿を決めていくと考えているからです。同時に、実物資産だけで全体が整うとも考えていません。すぐに動かせる資金と、動かしにくい資産の役割を分けて配置しておくからこそ、換金しにくさが弱点として表に出にくくなるのではないでしょうか。
その不動産は、いつまで持っている前提でしょうか
換金のしやすさという物差しは、分かりやすく、他と比べやすいものです。ただ、その物差しだけで測ると、不動産はいつも少し不利な資産に見えてしまいます。測り方を変えれば、見え方も変わってくるのではないかと思います。
もしお手元の不動産についてひとつだけ確かめるとしたら、いつまで持っている前提なのか、という問いを置いてみていただけないでしょうか。十年ほどなのか、次の世代に渡るまでなのか、あるいは決めていないのか。決めていないという答えでも構わないと思います。前提が定まっていなかったと気づくところから、順序は組み直せると考えています。私たちは、その前提をご一緒に言葉にしていく役割でありたいと思います。
本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。