分散しておきましょう、という言葉はよく耳にします。ご相談の場でも、いくつに分けているか、どのようなものを組み合わせているかというお話から始まることがあります。ただ私たちは、分散という言葉が、持っているものの数を数える作業として受け取られてしまう場面が少なくないように感じています。数が増えても、同じ出来事で同じ方向に動くものばかりであれば、全体としての振れ幅はあまり変わりません。本稿では、分散を数ではなく、何によって値が動くのかという源泉から見直すための順序を整理します。
分散は、持っている数では測れないと考えています
分散という言葉は、もともと、一つのことが起きたときにすべてが同じ方向へ動かないようにしておく、という考え方だと理解しています。ですから確かめるべきは、いくつ持っているかではなく、それらが何によって動くのかという点です。名前も発行元も違うものが、実は同じ景気の局面、同じ金利の動き、同じ地域の事情によって値を変えている、ということは起こり得ます。その場合、数の上では分かれていても、備えとしては一つにまとまっているのと近い状態です。
ですから私たちが最初に伺うのは、何をいくつお持ちですかではなく、それぞれが何によって動くとお考えですか、という問いです。この問いに答えようとする過程で、重なっている部分が見えてくることがあります。重なりが分かってはじめて、配分を動かす意味が出てくるのだと思います。
数が増えるほど、全体が見えにくくなっていきます
判断が難しくなるのは、良いと思われるものを一つずつ加えていった結果として、全体ができあがっている場面です。一つひとつの判断はそれぞれ妥当だったのに、合計してみると偏っている、ということが起こります。これには構造的な理由があると考えています。個別の検討は、その資産だけを見て行われます。全体との重なりは、全体を並べてみなければ分かりません。そして全体を並べる作業は、誰かが意識して時間を取らない限り、行われないままになります。
数が増えると、この作業はさらに後回しになります。把握すべき対象が多いほど、一覧にする手間が増えるからです。結果として、分散させたつもりの構成が実際にどう分かれているのかを、誰も確かめていないという状態が生まれます。分散は、増やした時点ではなく、並べて見た時点ではじめて確認できるものだと考えています。
配分は、ご本人の代で完結する設計ではありません
配分をどうするかという問いは、いつまでの話なのかによって答えが変わります。ご本人がお使いになる前提であれば、使う時期に合わせて整えることになります。次の世代へ渡る前提であれば、渡した後に誰が管理するのかまで含めて考える必要が出てきます。手間のかかるものを多く含んだ構成は、引き継がれたご家族の負担になることがあります。
ですから私たちは、分散の度合いだけでなく、その構成を維持できる方がいらっしゃるかどうかも併せて見ています。判断が必要な資産が多いほど、引き継ぐ方には知識と時間が求められます。誰が、どのくらいの関与でこれを保てるのか。その見通しがないまま数だけを増やすと、承継の場面で一度に整理せざるを得なくなることがあります。資産運用を守り、託すための設計として考えるとき、配分の話は自然と次の世代の話につながっていきます。
担当ごとの分散は、それぞれの範囲の中で正しいのです
金融機関のご担当は、その金融機関で扱える範囲の中で、偏りのない構成をご提案されます。別の金融機関のご担当も、同じように考えられます。それぞれのご提案は、その範囲では理にかなっています。けれども、複数の範囲を足し合わせたときに全体がどうなるかは、どの範囲からも見えてきません。
同じことは、不動産や保険についても起こり得ます。それぞれの領域の中では分かれていても、全体として同じ要因に寄っていることがあります。個別の判断はそれぞれの専門に委ねるべきものですが、全体を一枚に並べて重なりを確かめる作業は、どこかに置いておく必要があるのではないでしょうか。分散は、部分の合計として自動的にできあがるものではないと考えています。
実物資産では、持ち手の関与そのものが結果を左右します
実物資産を組み入れて考えるとき、私たちは値の動き方が違うという点だけを見ているわけではありません。もう一つ、持ち手の関与によって結果が変わるという性質があります。どう使うか、どのように管理するか、誰にお貸しするか、いつ手を入れるか。こうした判断の積み重ねが、その資産の状態を形づくっていきます。
市場の動きに委ねる部分と、ご自身の判断が効く部分。この二つを併せ持っておくことも、一つの分け方だと考えています。ただし関与できる部分が増えるということは、関与しなければならない部分が増えるということでもあります。時間のかかる資産を持つときほど、誰がその関与を担うのかを先に決めておく必要があるのではないでしょうか。
その配分は、何が起きたときのためのものでしょうか
分散という言葉は、それ自体が安心感を持っています。分けてあるという事実は、確かめるまでもなく良いことのように感じられます。けれども、何が起きたときに効く分け方なのかを言葉にしてみると、答えに詰まってしまうことがあるのではないでしょうか。
もし一つだけ確かめるとしたら、お持ちのものを一枚の紙に並べ、それぞれが何によって動くかを書き添えてみていただけないでしょうか。同じ言葉がいくつも並ぶようであれば、そこが重なっている部分です。増えたか減ったかではない物差しで点検するというのは、こうした作業のことでもあります。私たちは、その一枚をご一緒に作るところから始めています。
本記事は資産の管理・承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。また、個別の投資助言・税務助言を行うものではありません。実際のご判断にあたっては、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。